ビリー・ミリガン「24の人格」を持つ男

今日のテーマは、本当の正義ってなんだろう…と、掘れば掘るほど考えてしまうような話題です。

目次

女子大生強盗事件

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事の発端となったのは、1977年、アメリカオハイオにある州立大学で起こった、3人の女子大生を狙った暴行強盗事件。

逮捕された容疑者の名前は「ビリー・ミリガン」。ビリーの自宅から被害者の小切手やクレジットカードが発見され、事件は解決したと思われました。

しかし、裁判で下された判決は「無罪」。これは世界を騒然とさせる歴史的事件へと姿を変えます。

今日はこの事件で一体何が起きていたのか、見ていきたいと思います。

知れば知るほど、闇の深い背景です。

ビリー・ミリガン

1955年2月14日のアメリカ、ビリー・ミリガンは生まれます。

父はかつて一流のコメディアンとして活躍していたものの、ビリーが物心ついた頃には既に落ちぶれていました。母親が水商売で稼いだお金で、家族を支えていました。

ある日、ストレスが限界に達した父は、ビリーの目の前で自殺。

まだ幼いビリーにとって、父の自殺はあまりにも衝撃でした。ショックを受けたビリーは、ここである精神疾患を患ってしまいます。

解離性同一性障害(多重人格)。

ビリーの自己防衛本能が、新しい人格を作り上げることでこのストレスから自分を守ったのです。

このとき誕生した新しい人格は「クリスティーン」という3歳の女の子でした。失読症を患っていたそうです。

これが発端となり、ビリーの中には、どんどんと新しい人格が形成されることになります。

ある日、ビリーは家に置いてあった花瓶を割ってしまいました。

「ママに叱られる…ママが怖い…。」

恐怖にかられたビリーは、また新しい人格である「ショーン」を作り上げるんです。

この「ショーン」と呼ばれる男の子は、耳が不自由で、どれだけ母親に叱られても声が聴こえず、「この女の人はなんでこんなに怖い顔をしているんだろう…」と、ただ母の顔を眺めるだけでした。

虐待生活

ビリーが7歳になった頃、母親が再婚。新しい父親ができました。

ビリーが9歳になった頃、義父に呼び出され、二人は裏庭にある納屋に連れて行かれます。

そこで待っていたのは、天井から垂らした縄で自分を吊し上げ、暴力を振るう義父でした。しかも、この仕打ちはどんどんエスカレート。男の子であるビリーに挿入まで行う、性的虐待を繰り返すようになったんです。

「パパに殺される…どうすればいいの…逃げたいよ…」

毎日続くこの地獄は、ビリーの中にさまざまな人格を生み出すこととなりました。

なんと15歳になっても、地獄に終わりは来なかったのです。そんなある日、ビリーの中に新たな人格「トミー」が誕生しました。トミーは縄抜けの名人でした。

トミーのおかげで、縄を抜け出せるようになったころ、ビリーは自分の変化に違和感を覚え始めます。

知らないうちに時間が過ぎ去っている。17歳になったビリーの精神状態は、どんどん消えていく自分の記憶、時間によって、限界に達します。

「ごめんなさい。もうこれ以上耐えられません。さようなら。」

こう言い残し、ビリーはビルの屋上から飛び降りました。

しかし、寸前のところでレイゲンという人格がビリーの自殺を阻止。

ビリーが目覚めれば自殺をしてしまうと恐れた他の人格は、ビリーを長い眠りにつかせることとなりました。

女子大生暴行強盗事件

この自殺未遂を堺に、ビリーの身体は頻繁に人格が入れ替わるようになります。

犯罪を好むケヴィンという人格が薬局強盗事件を起こし逮捕され、約1年半服役。

刑務所のような危険な場所では、レイゲン・ヴァダスコヴィニチという人格がリーダーを努めていて、この人格は空手の達人で、アドレナリンの分泌を自在に操り、とんでもない怪力を出せるハルクのような人格なんだとか。

解釈方後は、なんとか仕事にありつくものの、頻繁に起こる人格の入れ替わりで仕事も続けることができず、社会からドロップアウトしてしまう。

ある時、レイゲンが目を覚ますと、そこには大量の請求書が置かれていました。

責任感の強いレイゲンは、なんとしてでもこの支払いをしなければならないと思い、強盗を計画します。

ターゲットはオハイオ州立大学。目的は金であり、誰かを傷つけるつもりはありませんでした。

しかし、そこで他の人格が表に出てきてしまい、計画は破綻。強姦強盗を3件犯してしまいました。

事件の詳細はこうです。

  1. レズビアンの女性人格アダラナが女性に近づき、言葉巧みに安心させ、車に乗せる。
  2. 乱暴者の人格フィリップが、女性を人気のない林へ誘拐、レイプ。
  3. 犯罪を好むケヴィンが、女性を脅して銀行へ移動。小切手を現金化させ奪い去る。

レイゲンが表に出ると、そこには札束が。

「ああ、誰かがうまくやったんだな。」と勘違いしたレイゲンは支払いを済ますも、また別の人格に入れ替わり、気がづくとお金が消えている。この繰り返しとなりました。

結果、そのずさんな犯行手口から警察に突き止められたビリーは、容疑者として起訴されます。

ビリーの弁護士だったジュディは、多重人格であるビリーの話を、最初は信じていませんでした。

しかし、交渉役のアレンや、到底真似できないイギリス訛りのアーサーなど、あらゆる人格が表に出てきたことによって、精神科医などの診断からビリーは正式に「解離性同一性障害」と診断され、判決は無罪となります。

このとき、弁護士との打ち合わせの中で、交渉役の人格アレンが、自分の脳内について、こう語っています。

「俺の頭の中には、白いスポットライトがあたっている空間があるんだよ。そのスポットライトを囲むようにして、別の人格が立っている。そのスポットに入った人格が、今こうしてるように、表に出てくるんだ。基本的には、アーサーがスポットに立つ人格を選ぶ。刑務所のような危険な場所では、レイゲンが支配権を握るんだ。」

無罪判決

裁判が行われるまでの間、心理学者、弁護士、検事、そして精神科医たちが「アーサーやレイゲンたち」を説得し、ビリーを目覚めさせるよう促しました。

最初は抵抗していたものの、父親の影響で男性恐怖症となっていたビリーを気遣い、レイゲンは男性を外に出して、下手に刺激しないという約束のもと、ビリーを目覚めさせることに同意。

レイゲンがうつむき、口が微かに動いたあと…

ビリー「こ…ここはどこ!?なんで僕は死んでないんだ!?屋上から飛び降りたはずだ!」

ー精神科医たち「落ち着いてビリー!私たちは医者と弁護士よ!あなたを助けたいの!」

ビリー「助けるだって? 僕が何か喋ったら父さんに殺される!」

ー精神科医たち「ビリー。あなたのご両親は5年前に離婚してるわ。」

ビリー「離婚!?一体どうなってるんだ…。」

多重人格について否定的だった検事たちも、ビリーの異常な反応を目にし、思わず信じずにはいられなかったと言います。

裁判までの間、ビリーは人格統合のための治療を受け、そこで初めて他の人格の存在を知りました。ビリーは他の人格と話し合いをする方法を習得し、いくつかの人格を1つに統合。

ビリーの精神状態も安定してきたため、裁判が行われ、ビリーは無罪となります。

ビリー・ミリガンの闘病生活

ビリーはその後、人格を1つにするための治療を受け始めました。

しかし、この人格統合治療を受ける中で、ビリーの中に新たな人格「Teacher」が現れます。

Teacherはとても賢くユーモアに溢れた人格で、他の人格を「わたしがつくったアンドロイドだ」と言ったそうです。Teacherは、幼い頃のビリーの記憶も、他の人格の記憶も全て持っていて、ずっと脳内に存在していたそうなんです。実体化するまでは、他の人格を導く「天の声」のような存在として、レイゲンやアーサーを教育していた、いわゆる神様のような存在。

このTeacherの出現によって、ビリーの病状は瞬く間に回復していきました。

しかし、強姦強盗事件を3件も起こした犯罪者が「無罪」となっていれば、世間の人は黙っていられません。マスコミは毎日のように「強姦魔」と書きたて民衆を扇動。

彼を危険視する政治的圧力によって、1979年に州立ライマ病院へと転院させられます。この病院はまるで刑務所のような劣悪さで、ビリーは病院による虐待に苦しみました。

1982年にもとの精神病院に戻ったものの、ビリーを危険視する勢力が無実の罪を着せ再逮捕。再び劣悪な精神病院に押し込まれ、耐えられなくなったビリーはなんと、脱獄を決行。しかしこれも失敗に終わり、結局ビリーが解放されたのはそれから9年後の、1991年でした。

晩年

自由の身となったビリーは、治療中ずっと面会を続け親睦を深めていた小説家ダニエル・キイスとともに、自分が育った家、虐待を受けた家へと向かいます。

ビリーはそんな家を見て、こんな言葉を残しているそうです。

「虐待は虐待を生むと言いますが、私を虐待した義父も、祖父に虐待されていたんでしょうか。いずれ私も…。いや、こんな不幸はこれで終わりにしよう。私は義父を許します。そうすれば義父も、祖父を許し、それがいつか、未来を変えていくでしょう。」

その後、ビリーは1996年に、自分の会社である”Stormy Life Productions”のあるカリフォルニアで生活。短編映画を制作予定だったものの、消息不明となり、かつての知人とも連絡が取れなくなったそうです。

そして2014年12月12日。オハイオ州コロンバスの病院で、この世をさりました。享年59歳でした。

ビリー・ミリガンの24の人格

名前 年齢 性別
ビリー・ミリガン(Billy Milligan) 26歳
  • 基本人格
  • 他の人格の存在を知らない
  • 虐待された記憶の管理者
アーサー(Arthur) 22歳
  • 人格のリーダー
  • 上流階級のイギリス人
  • 頭脳明晰で他の人格を最初に発見した
  • 知的な話しぶりと真似して話せる物ではない上流階級イギリス訛りによって半信半疑であった判事らに解離性同一症者であることを確信させた重要な人物の一人。
レイゲン・ヴァダスコヴィニチ(Ragen Vadascovinich ) 23歳
  • ビリーの自殺を止めた人格
  • 銃と弾薬の権威で空手の達人
  • 怪力の持ち主で、アドレナリンの分泌を操る
  • アーサーと対をなす人格で、危険な場所では彼が人格のリーダーとなる
  • 他の人格の保護者的存在であり、女性と子どもを守る
アレン(Allen) 18歳
  • 口先がうまく交渉担当
  • 唯一たばこを吸う人格
  • 頭脳明晰で他の人格を最初に発見した
トミー(Tommy) 16歳
  • 喧嘩っ早い
  • 縄抜けの名人
  • 電気の知識に長けている
ダニー(Danny) 14歳
  • いつも怯えている内気な少年
  • 義父から自分の墓を掘らされ、生き埋めにされた経験がトラウマになっている
デイヴィッド(David) 8歳
  • 苦痛の管理者
  • 他の人格が受けた苦痛を負う人格
  • わけもわからずただ泣き続ける
クリスティーン(Christene) 3歳
  • 失読症の女の子
  • ビリーの中で最初に誕生した人格
  • 花や蝶の絵を描くのが好き
クリストファー(Christopher) 13歳
  • クリスティーンの兄
  • ハーモニカを吹くのが好き
  • ロンドンの労働者階級で離される英語訛りがある
アダラナ(Adalana) 19歳
  • レズビアン
  • 他人格のために家事を行う
  • 強姦事件に関与しスポットを追い出される
  • 他人格をスポットから外す力がある
教師(Teacher) 26歳
  • 聡明でユーモアあふれる人格
  • 全人格の記憶を持っている
  • 「わたしは1つに統合されたビリーです」と語っている
  • 表に出るまでは、脳内のアドバイス役のような存在だった
以下13人は『好ましくない者たち』。普段はアーサーによって抑え込まれ、表に出ることはない。精神的に不安定な時期は、アーサーやレイゲンから逃れ表に出てしまう。事件を起こしたのも彼ら。統合治療の際に、ドクターの前で初めて姿をあらわした。
フィル/フィリップ(Phil / Philip) 20歳
  • ブルックリン訛りで言葉遣いが悪い
  • 強姦事件の張本人
  • 「わたしは1つに統合されたビリーです」と語っている
  • 表に出るまでは、脳内のアドバイス役のような存在だった
ケヴィン(Kevin) 20歳
  • 犯罪を好む
  • ずさんな手口を使う
  • 薬局強盗を起こし逮捕された
  • 強姦後の、強盗事件の張本人
ウォルター(Walter) 22歳
  • 自分は生まれながらのハンターだと思っている
  • 方向感覚がずば抜けて高く、コンパスのような扱いをされる
エイプリル(April) 19歳
  • ボストン訛りがある
  • 義父に対する復讐心が強く凶暴
  • 他の人格に「異常者」とみなされている
サミュエル(Samuel) 18歳
  • ユダヤ教徒
  • 全人格で唯一神を信じる人格
  • 彫刻家
マーク(Mark) 16歳
  • ずっと壁を見つめている
  • 他の人格に命令されなければ何もしない
  • 「ゾンビ」とあだ名をつけられている
スティーヴ(Steve) 21歳
  • 常に人を騙す
  •  

  • 極度な自己中
  • 常に人を見下して悪口を言う
リー(Lee) 20歳
  • ピエロ
  • いらずら好き
  • リーのせいで、刑務所や精神病院で他の人格が独房に入れられたことがある
ジェイソン(Jason) 13歳
  • 癇癪持ちのヒステリック
  • 不快な記憶の引受役
  • ジェイソンのおかげで他の人格は不快な記憶を忘れることができる
ショーン(Shawn) 4歳
  • 知恵遅れ
  • 頭の中の振動を感じようと「ブーン」という音を出すのが癖
  • 2番目に誕生した人格
ボビー(Bobby) 17歳
  • ネガティブ
  • 行動力が無い
  • 夢は語るが何もしない
マーティン(Martin) 19歳
  • 自慢が好き
  • とにかくイキる
  • 努力せずに色々なものを欲しがる
ティモシー(Timothy) 15歳
  • 花屋に務めるも、ゲイの店長に言い寄られ心を閉ざす

参考:Wikipedia

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